「親が残せるのは教育だけ」を言い訳にして教育費を聖域化してはならない
教育費が聖域になっている理由
子どもを習い事や塾に通わせるのには理由があります。多くの場合、「子どもの将来に良かれと考えて」ではないでしょうか。
子どもの将来は「人並み」でよく、決して高望みはしていないという保護者にお目にかかることがあります。「人並み」の人生を送るために、「人並み」の収入を得られるような就職ができて、そのためには「人並み」の学歴を手に入れ、その学歴を手に入れるために逆算して、今、塾に通わせる選択をしていたりします。
「人並み」というフツウを目指すための選択ですから、その選択もフツウと考えるのは不思議なことではありません。家計が苦しくても、フツウの支出である教育費を削ることは想定外なのです。結果的に、教育にかけるお金は節約や見直しの対象にはならず、聖域となってしまいます。
聖域にしてしまうのは保護者の不安感
教育費を「聖域」にするのは、誰かから強制されているわけではないので、保護者がやめようとすれば、いつでもやめられるはずです。それなのに、塾をやめる決断に踏み切るのは難しいようです。やめてしまうと、思い描いている将来の学歴や就職から遠ざかってしまうようで不安だからでしょう。
塾に通っているから成績を保てていると考えるのは簡単です。でも、それが真実かどうかはわからないのです。「教育費だから」という理由だけで支出し続けるのではなく、支出する理由についてきちんと考えるようにしましょう。
その教育費は、本当に役に立っているのでしょうか。
なぜ、考えてみてほしいのか。それは不安から目を背けて支出を続けることで、将来必要なお金が足りなくなることがあるからです。
保護者の収入は無限ではない
保護者の収入には限りがあります。今月の収入ということではなく、一生涯に稼ぐことのできる、いわゆる生涯賃金と呼ばれる金額のことです。投資や貯蓄のリターンを含めてもいいのですが、いずれにしてもおおよその限界があります。
この限界の範囲で住宅を購入したり、自分たちのリタイア後の生活費を準備したり、子どもの教育費を負担したりするのです。
今月は子どもの塾代など学校外教育費を支払っても家計は黒字だったでしょうか。1年間の収支はどうでしょう。今年1年間の収支は黒字でも、子どもが生まれてから中学校卒業までの収支は、保護者の平均余命までの収支はどうでしょうか。
一度、表に書き出して、できればグラフ化してみるといいですね。短期間では黒字に見える家計が、長期間で見ると赤字になってしまうケースは少なくないのです。
ライフプラン上のバランスを考える
子どもにかかるお金は、子どもの成長に比例して増えていきます。「高校の授業料実質無償化」や「高等教育の修学支援新制度」という新しい制度によって、学校教育費はいくらか軽くなる方向にはありますが、子育て全体の金額から考えれば、それほど大きな援助ではないとも言えます。
つまり、子どもを育てる費用は、今でも保護者の負担が大きいということです。
子どもの教育支出が一番大きな金額になる期間は、通常、大学や専門学校に通うころです。学費が高めの学校に通っていたり、一人暮らしをしたり、兄弟の年齢が近い場合などは、その年の収入で、その年の支出を賄えないことがあります。
その期間に備えるために、あらかじめ貯蓄しておくことが必要になりますが、その貯蓄はしっかりできているでしょうか。
今年は黒字だから大丈夫...ではなく、将来も大丈夫かどうか見通してみてください。今も将来も大丈夫と言えるような支出であれば、塾代を負担しても問題ありません。
「親が残せるのは教育だけ」の言い訳が親子共倒れを招くことも
わが家には子どもに残すような財産がないから、せめて教育は十分に受けさせて生きる力を育みたいという話も聞かれます。
同感ですが、「親の老後の生活資金を確保できる」ことが条件です。
保護者が子どもの教育にお金をかけた結果、自身の老後生活資金が足りなくなることは十分にあり得ます。生活の立ち行かなくなった親を子どもが援助するのもまた当たり前といえば当たり前ですが、親は、もともと、子どもに面倒を見てもらおうと思って教育費を負担したわけではないはずです。
保護者は、自身の老後生活費まできちんと計算しておかないと、子どもに予想外の負担をかけることになりかねません。
大学進学時、その費用が不足して「貸与型」奨学金を利用した場合はなおさらです。親への援助をした結果、奨学金の返済を滞らせてしまい、破産という道を選ばざるえない可能性があります。
教育は大事で、保護者はその費用を気兼ねなくだしてやれればいいのですが、必ず、自身の将来を見通してから、できる範囲でしてください。
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- プロフィール : 菅原 直子(すがわら なおこ)
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ファイナンシャル・プランナー(AFP)、教育資金コンサルタント
会計事務所向けオフコン販売、外資系生命保険会社勤務・同代理店経営を経て、1997年よりファイナンシャル・プランナー。公私立高校や自治体などで保護者・生徒・教員のための進学資金セミナーおよびライフプラン講座・相談会は関東を中心に10年以上にわたって300回超。新聞や雑誌への取材協力や執筆、働けない子どもに関する家計の相談も行う。地元湘南地域密着のFP活動も展開中。3男子の母。
■著書
共著『子どもにかけるお金の本』(主婦の友社)
『子どもの教育費これだけかかります』(日労研)
■所属団体
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
子どもにかけるお金を考える会
働けない子どものお金を考える会