「言葉」を正しく理解して、進学資金の不足を予防
大学に払うお金を「授業料」と呼んではいけない
この原稿を読んでくださっているのは、小学生や中学生をお持ちの保護者や祖父母の方々でしょう。大学のお金なんて、「まだ先のこと」と思っている方も多いと思われます。
そこへ「高等教育の負担軽減(無償化と表記することもあります)」決定のニュース。2020年4月から実施されるので、今後の大学や専門学校の授業料はゼロになり、わが家で用意しなくてもすむと喜んだ方もいるのではないでしょうか。
この制度の対象者がかなり限定されていることや上限額については注意が必要ですが、「言葉」についてはさらなる注意点があります。
文部科学省が調査している「私立大学の初年度納付金」を見ると、授業料以外の費目があることがわかります。次の表の最上段が該当し、個々の学校では別の名称や他の費目があることも。
「高等教育の負担軽減」の対象になるのは赤い線で囲った授業料と入学料だけですから、この制度の対象者となっても、施設設備費などは最初から自己負担なのです。
学校に払うお金のことを「授業料」と口頭で言う人は珍しくありません。「学校納付金を納める」という言い方は長くて面倒ですから、つい「授業料を納める」と言ってしまうのでしょう。
けれど、その表現が、「私立大学に払うお金」と「授業料」がイコールであると理解させてしまうことにつながります。授業料だけをピックアップして話題にしているのか、学校に納める金額すべてを指しているのか、意識して理解することが重要です。
「授業料」に関しては、もう一つ注意したいことがあります。
給付型奨学金は、○○万円という具体的な金額設定の他、「授業料半期分」のように授業料を基準に設定されていることも少なくありません。
わが子が大学独自の給付型奨学金制度で「授業料1年分」の対象になった保護者が、「授業料=学校に払うすべてのお金」と勘違いしたために、貯めてきたお金を他のことに使ってしまい学費が不足したというケースがあります。
「受給」は「もらう」こととは限らない
一般的な会話で「受給」と言うと、「もらう」という感覚ではないでしょうか。
でも、奨学金制度では「受け取る」ことを「受給」と表現します。返済不要の給付型も、返済しなければならない貸与型も、奨学金という名前のお金を受け取ることが「受給」なのです。
大学生の先輩から「奨学金をもらって(受給して)いる」と聞いた高校生は、どの先輩も奨学金をもらえているのだなと思ったりするのです。そして、進学後に自分が利用する奨学金制度が貸与型であっても、いったん刷り込まれた情報の修正は難しく、返済の認識の薄いままに卒業を迎えて、結果的に返済に苦しむことにつながっていきます。
奨学金担当の高校の先生ですら、貸与型奨学金を生徒に説明するときに「受給」することを「もらう」と言ってしまうこともありますから、厳密に表現するのは簡単なことではないのでしょう。かみ砕いて説明してくれる先生の話を聞いて理解を深めつつ、書類もしっかり読みこんで誤解しないようにしていきましょう。
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- プロフィール : 菅原 直子(すがわら なおこ)
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ファイナンシャル・プランナー(AFP)、教育資金コンサルタント
会計事務所向けオフコン販売、外資系生命保険会社勤務・同代理店経営を経て、1997年よりファイナンシャル・プランナー。公私立高校や自治体などで保護者・生徒・教員のための進学資金セミナーおよびライフプラン講座・相談会は関東を中心に10年以上にわたって300回超。新聞や雑誌への取材協力や執筆、働けない子どもに関する家計の相談も行う。地元湘南地域密着のFP活動も展開中。3男子の母。
■著書
共著『子どもにかけるお金の本』(主婦の友社)
『子どもの教育費これだけかかります』(日労研)
■所属団体
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
子どもにかけるお金を考える会
働けない子どものお金を考える会