工作を楽しみながら算数を学ぶ効果
子どもに勉強を教えていると、思わず「どうしてわからないの!」と言いたくなる、というお話を保護者の方からよく聞きます。でももし「どうしてわからないのか」の理由に気づけるのなら、子どもはすでに自立した学習者でほとんどの問題は解決していることになり、親の出番はないのかもしれません。つまり、「どうしてわからないのか」を分析して対処できるようになることが、うまく学ぶための、またうまく教えるための秘訣とも言えるのです。
この連載では、工作を通して算数を学ぶ方法をご紹介していきますが、「なぜ工作を通して算数を学ぶことが効果的なのか?」の背景にある理論は、「人はどのようにして学ぶのか」という仕組みであり、それは「どうしてわからないのか」を分析することにも繋がっています。
意外と知らない人が多い「人が学ぶ仕組み」を知って、ご家庭で楽しく、効率よく、子どもの学びをサポートして頂けたらと思います。「人はどのようにして学ぶのか」について、簡単に説明するのは難しいのですが、今回はお子さんの勉強をサポートするうえで知っておくと役立つ、いくつかのエッセンスをご紹介します。
<学ぶ前から子どもは何かを知っている>
「子ども」と書きましたが、実は大人も同じです。長年の研究から、人が学ぶ時には空の器に知識を詰め込むわけではないことが分かっています。乳幼児でさえも、日々の生活の中で何かしら自分なりの知恵を身に付けています。それは間違っていることもあるわけですが、このことを無視して教えようとするとうまくいかなくなります。
子どもが何を知っているのか、間違った思い込みは何か、それらを想像しながら学びをサポートすることで、子どもたちは自分自身の知識を土台にしてさらに新しい知識を組み込んでいくことができます。また、楽しい思い出と新しい知識がつながることで、知識が活性化される可能性が高まります。
<学ぶとは自分なりの知識を組み上げていくこと>
認知科学や学習科学の世界では、エキスパート(専門家)の研究が行われています。ある道を究めた人たちの知識の形を調べると、それは決して箇条書きの形で詰め込まれた知識ではなく、重要な概念を基につながりあっていることが分かっています。そしてそのような知識は、現実の場面でも取り出せる生きた知識となり、応用しやすいのです。まさに今の時代に求められる知識ですね。
<具体的なものの理解から抽象的なものの理解へ>
心理学者であるジャン・ピアジェの思考発達段階説は、部分的には否定的な説があるものの、全体的には現代でも大きく支持されています。この思考発達段階説の適応について個人差はありますが、概ね人は7~11歳の具体的操作期で論理的思考を得て、11歳以降の形式的操作期で抽象的な考え方ができるようになることがわかっています。
<理にかなっている算数と工作という組み合わせ>
ここまでの話から、小学生の間は、頭の中だけで抽象的なことを理解して知識を構築していくことが、そもそも子どもにとっては負荷が大きいということを理解して頂けたと思います。「どうしてわからないのか」の理由の1つは、まだ認知的発達が追いついていないという場合もあるわけです。
さらに「何のために算数を学ぶのかわからない」という思いが、学びのモチベーションを下げてしまう可能性もあります。ではどうすればよいのでしょうか。その解決策の1つに算数と工作を組み合わせて学ぶ方法があります。
学校や学習塾で学ぶ知識は、テストで点数を取ることには役立つものの、現実の場面では不活性な知識である場合が多いことがわかっています。知識を活性化するためには、必要とされる場面で知識を使う体験をすることが重要です。このようにして身に付けた知識は、新しい課題に直面した時にも応用できる知識となります。エキスパート(専門家)が持っている知識もこのタイプの知識で、今後の新しい受験の形にも適合したものと言えるでしょう。
<工作をしながら算数を学ぶ>
小学4年生で平行と垂直を学びます。ですが、平行や垂直が描けることが何の役に立つかを考えたことがある人は、あまり多くはないかもしれません。でも、現実の世界でこの知識をどのように生かすかを考えることで、知識は活性化し使えるものになります。
たとえば、地平線(地平面)に対する平行を作れば、地球の重力を均等に受けることができるようになります。地面と平行になっていなければ、雨水が偏ったところにたまってしまうかもしれませんし、ものが転がってしまうかもしれません。ある方向にだけ重力がかかれば骨組みが崩れてしまう可能性もあります。このように、現実世界で平行が描けること、作れることは大変重要なのです。
「おうち実験室~親子で発見する算数と理科」第69回「同位角を同じにして平行を作り、夏のかざりにしよう」では、同位角を利用して平行を作り、飾りの骨組みを作る体験ができます。このように、工作を通して算数を体感することで、算数を学ぶ目的が分かりやすくなるだけでなく、具体的な理解が抽象的な理解へとつながっていきます。さらに楽しい夏の思い出ともつながった生きた知識は、きっと忘れることのない、将来的に使える知識となることでしょう。何よりも、親子で工作をしながら算数を学ぶことは楽しい経験となりますよね。ぜひご家庭でも算数を楽しんでください。
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- プロフィール : 中牟田 宴子(なかむた やすこ)
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家庭教育研究家。
九州大学卒業。大学では認知心理学を専攻。
大学卒業後は大手メーカーでシステムエンジニアとしてプログラムの設計と開発を担当する。その後育児期間を経て現在は、認知心理学を基に数学と科学などのつながりを学べる「算数・数学塾」を企画運営しながら家庭教育を研究。子どもたちが不思議なものに出会って驚いたり感動したりする瞬間に立ち会えるのが幸せ。
2012年より5年間東京大学大学院工学系研究科で工学教育に関わった。
NPO法人センス・オブ・ワンダーの代表を務め、東京大学工学部や研究機関と共に子どものためのサイエンスカフェなどを企画開催。
認知心理学に基づくナカムタメソッドの研究開発を行い、算数とアート、理科などが融合したコンテンツの開発と普及を行っている。
家庭だから伸ばせる子どもの才能
「算数・数学塾」の企画・運営の中で発見したことや、二児の母として子どもを育てる上で実践してきた家庭学習のヒントとその成果などをつづったブログです。
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現在、さいたま市にて開校している「さんすう大好き!」が生まれる教室、 「算数・数学塾」のWEBサイト
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